兵庫県内の企業と大学生の就職マッチングを様々な事業を通して行う『Mラボ』の中核事業『課題解決ラボ』(主催:神戸新聞社、後援:兵庫県中小企業団体中央会)のWEB発表会をホームページ上にて行いました。県内企業が抱える様々な経営課題を、大学生がゼミの専門性をいかし、学生の視点で解決を目指す事業です。今年度も、新型コロナウィルス感染症による感染リスクを考慮し、オンラインを中心とした研究活動となりました。5社15チームが参加した結果は、以下の通りです。
審査委員長 | 神戸大学大学院経営学研究科 教授 南 知惠子 |
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関西大学・西岡ゼミ(研究企業:TAT)
テーマ 一般向け若者市場へ 美意識高いタイプに向けてネイルのサブスク
少量タイプで装い多彩に
プロ、一般市場向けにネイル関連用品を販売するTATだが、2010年ごろから両市場ともに成長は鈍化しつつある。TATのビジネスの現状を見ると、プロ市場向けは、市場成長率こそ低いものの市場占有率は高く「金のなる木」だが、一般市場向けは、市場成長率は相対的に高いものの市場占有率は低い「問題児」だ。開拓の余地が残されている一般市場、かつその中でも年代別顧客層で全体の2割しか占めていない10代、20代をターゲットとすべきだ。10代、20代ともネイル経験率は7割程度だが、20代で月に1回以上ネイルをしている割合は12.5%にすぎず、その頻度をどう上げるべきかをテーマに据えた。特にネイルに対してポジティブで新しいものに寛容な「美意識高めBEAUTYタイプ」に、美容の中でネイルに対する優先度を上げるための付加価値をつけたサービスとして「少量ネイルのサブスクリプションサービス」を提案する。
ポリッシュなどを少量のカプセルタイプで提供することにより、気軽にさまざまな色を楽しめ、自分だけの色のカスタマイズも簡単、というメリットをアピールすることができる。「美意識高め」の市場を開拓することで、かわいく見られたいけど、面倒くさい、難しいと感じている「ネイルうちには出来ひんねんタイプ」、美容・ネイルに興味がない「ネイルなんてOUTOF眼中タイプ」グループにも影響を与え、若者向け一般市場の拡大を狙うことができる。
課題に見合う姿勢素晴らしい
株式会社TAT代表取締役社長・高野芳樹氏の話
まずは関西大学・西岡ゼミの皆さま、グランプリ受賞おめでとうございます。初回打ち合わせの時点で既に事前調査をした上でプレゼンしてくださり、課題に向き合う姿勢が素晴らしい学生たちでした。ペルソナ分析が独特でおもしろいながらも、非常によく調査されており、レベルの高さを感じました。ネイル商材やサービスの在り方に関して、さらなる展開の可能性を示してくださり、ありがとうございます。
体験実り多く感謝
チームリーダー・阪上雅日さんの話
株式会社TATさまとお話を進めると、「お役立ち」をキーワードにネイルに関わる方を幸せにすることを目指されていると感じました。そこで私たちも何がTATさまにとって「お役立ち」になるかを考え、若者の一般市場開拓へ向けたご提案をさせていただきました。特に統計ソフトを用いたデータ分析では自分たちの勉強不足から悩むこともありましたが、先輩方や先生にご指導いただき、活動を進めることができました。企業さまと協同で活動を行うことで実践的な学びができ、実り多い期間となったことを実感し深く感謝しております。
甲南大学・西村ゼミ(研究企業:大和出版印刷)
テーマ ~『未来』と『書く』~神戸派計画による新たな価値提供
「アナログに温かみ」着目
「情報発信をお手伝いする」という理念を掲げる大和出版印刷から「BtoC部門の売り上げを向上させる」という課題が与えられた。これを踏まえ、同社のステーショナリーブランド「神戸派計画」に着目した。ECサイトでの購買者データを見ると18~24歳の割合が全体の3%と低く、10代、20代を取り込むことでBtoC部門の売り上げ向上が狙えると考えた。
若い世代は機能的価値よりも情緒的価値を重視することから、後者を訴求した製品とすべきだ。情報発信のツールとしてはメールやSNSなどのデジタルをはじめ、手紙や日記などのアナログがあるが、後者の方が豊かな表現ができる。若い世代にアンケートしたところ、アナログには「あたたかみを感じる」「人とのつながりを感じる」という声が多いことが分かった。そこで、人生の節目に未来の自分や大切な人に向けてメッセージを送ることができる「ミライアテガミ」という製品を提案する。
手紙が届く年月は自由に指定でき、宛名は同社が持つオンライン箔押し印刷機で印字し、温かみを出す。また、糸と糸が人を結ぶという思いを込めて職人さんがミシンで縫った封筒を用意する。小中高の卒業式で使ってもらうほか、喫茶店やホテルで販売する。県内の私立小学校、喫茶店、ホテルにヒアリングしたところ、半数以上が利用したいと答えた。「ミライアテガミ」を通して、書く楽しさ、読む楽しさを感じ、ブランドの認知、売り上げの向上につなげることができる。
関西学院大学・西本ゼミ(研究企業:クロシェ)
テーマ 心地よさを「 」の視点から
Z世代向けに新ブランド
「ここち良さを、あたらしい視点から」をコンセプトに婦人服および服飾雑貨を手がけるクロシェでは40~50代に顧客層が偏っているという課題を抱えている。そこで20代のZ世代をターゲットとした新ブランドを提案したい。Z世代の特性として、周りから浮きたくないという周囲への帰属意識が高い一方で、その中でも自分らしさを保ちたいという「矛盾した感情」があることを突き止めた。そこで自立と共生を組み合わせた造語「Conviviality」をブランド価値に据えた。
クロシェの企業訪問をして「豊富なカラー展開」と「包装にまでこだわり、最高の顧客体験価値を提供」していることを感じた。新ブランドは「keep it real(自分らしく生きる)」から「Keir(ケア)」とした。商品は白いシャツで色付きの裏地とし、スリットを入れボタンを開け閉めすることで裏地の色を見えるようにしている。購入者には好きな写真を選んでもらい、その写真に使われている4色から色を選んでもらう。シャツを梱包する箱は、中の色をシャツの裏地と同じ色にし、ときめき感を演出する。ターゲット層へのインタビューから価格は9800円が妥当と考えた。Z世代になじみやすいインスタグラムを使ってプロモーションを行う。
実際にターゲット層に尋ねたところ、58%が「購入したい」と回答した。現在、JR大阪駅直結の商業施設「ルクア」のポップアップストア出店を目標に動いているところだ。
武庫川女子大学・平井ゼミ(研究企業:TAT)
テーマ 海洋プラスチックネイル 爪の先からSDGs貢献
衛生面、環境配慮を重視
TATでは「ネイルで世の中を良くしたい」という理念を掲げており、老人ホームを訪ねて高齢者に施術をし、指先から楽しんでもらう社会貢献活動にも取り組んでいる。我々は、ジェルネイル樹脂、接着剤、ネイルチップ本体にプラスチックが使われていることに着目し、昨今、海洋プラスチック汚染の問題が顕在化していることから、その使用削減に取り組むべきと考えた。
すでに土に還るネイルチップを開発している企業があり、ヒアリングで訪問したところ、抗菌素材を混ぜることで衛生面をクリアしていること、また環境にやさしいネイルチップの接着剤も開発していることも知った。販売の仕方としては、「10枚セット販売」「ネイルチップをいくらでも借りられるサブスク制」「売れ残ったネイルチップの詰め放題販売」の3通りを考えた。消費者に受け入れられやすい販売価格として5千円の設定とする。
世界の4大コレクションではネイルチップが使用されていることから、まず日本のファッションショーで海洋プラスチックのネイルチップを着用してもらうことで認知度を上げられればと考えている。
審査委員長 | 神戸大学大学院経営学研究科 教授 南 知惠子 |
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神戸大学文学部を卒業後、ミシガン州立大学にて修士号、神戸大学にて博士号(商学)を取得。横浜市立大学商学部助教授を経て、2004年より現職。神戸大学キャリアセンター長、学長補佐(キャリア支援担当)を経て、2020年度より、神戸大学学域長、経営学研究科長、経営学部長を兼務。専門は流通・マーケティング論。兵庫県、神戸市等の審議会委員、日本生産性本部顧客満足度指数開発顧問等を歴任。サービス開発に関する企業との共同研究多数。主要著書は、『サービス・イノベーション-価値共創と新技術導入-』(有斐閣、2014年、西岡健一との共著)、『製造業のサービス化戦略』(中央経済社、西岡健一との共著)など。 |
審査委員 | 流通科学大学商学部 教授 清水 信年 |
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神戸大学経営学部卒業、同大学院経営学研究科博士課程修了、博士(商学)。奈良大学社会学部専任講師、流通科学大学商学部専任講師・准教授を経て2011年より現職。同年から、小売業での人材育成を目的として新設された商学部リテールマネジメントコース長を務め、現在は副学長兼大学院流通科学研究科長。専門はマーケティング論、製品開発論、リテール・マネジメント論。 |
審査委員 | 兵庫県立大学国際商経学部 教授 小宮 一高 |
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神戸商科大学(現兵庫県立大学)商経学部卒業、神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了、博士(商学)。香川大学経済学部専任講師、准教授、教授を経て、2018年より現職。2021年より同大学社会科学研究科経営学専攻長。専門は、マーケティング論、流通・商業論。 |
審査委員 | 株式会社日本政策金融公庫 神戸支店 小谷 健太郎 |
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1997年中小企業金融公庫(現・日本政策金融公庫)入庫。2006年日本生産性本部出向。千住支店、静岡支店、金沢支店にて中小企業向け事業資金の融資業務に従事。2011年大阪支店融資課長、2015年人事部人財育成課長、2017年広報部報道課長。2020年7月から神戸支店中小企業事業総括課長。神戸大学大学院経営学研究科卒(MBA)、中小企業診断士、日本生産性本部認定コンサルタント。 |
審査委員 | SUNDRED株式会社 パートナー 深田 昌則 |
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松下電器(現パナソニック)入社後、北米赴任を経てAV機器の国際営業・宣伝責任者として海外市場導入やグローバル販促を実施。その後、オリンピック事業実務責任者としてアテネ大会よりIOCや各五輪大会組織委員会との契約交渉やスポーツマーケティングを担当。2010年よりカナダにて市販部門責任者、2016年に社内新規事業アクセラレーター「ゲームチェンジャー・カタパルト」を創設。米国VCと合弁で事業開発会社 株式会社BeeEdgeを設立、取締役を兼務し、傘下に事業会社3社設立。2019年より新産業共創スタジオ SUNDRED株式会社パートナー。2021年9月にパナソニックでの職務を退任、現在は個人事業主としてスタートアップ支援、地方創生、越境人材育成などに取り組んでいる。 |
審査委員 | 有限会社未来教育設計 代表 吉住 裕子 |
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(株)住友銀行、(株)JDL等に勤務したのち、1999年に独立し、2005年に(有)未来教育設計を設立。 事業者・団体の新規事業立ち上げを、戦略立案・資金調達・人財育成面から支援し、その挑戦と進化を応援する中小企業診断士。 また、学生から社会人への過渡期に重要となる「企業人準備教育」を企画・提供し、企業と人財の未来づくりを支援中。 |